面接が終わった後、少し時間があり藤原さんも入って、皆で話をすることにした。
藤原さんが、インスタントのコーヒーを入れてくれた。私が、差し入れに持ってきた、クッキーをつまみながら、面接の考え方について、少し話をすることにした。
まず、橋本君に了解を得た。
「橋本君、少し時間があるので、この機会に古田さんにもう少し、面接と言うか採用の考えを伝えたいがよいかな?」
橋本君は、少し迷って答えた。
「田中さんが話をされるのは構いませんが、研修としてやるなら正規の手続きを踏まないといけません。確かに、古田さんが将来当社の幹部への道を歩む可能性を、私は否定できませんが・・・」
これを聞いて、私も言い方が悪かったと、訂正した。
「一寸構えすぎたようで、訂正します。これは研修と言う感じで構えたものではないが、一昔前なら面接が終わった後、懇親会や慰労会と称して、先輩と酒を飲みながら、いろいろ話していたね。そのような感じです。」
橋本君もそれを聞いて、安心したようだ。
「そういうことなら、私も賛成です。田中流の判定と、古田さんの感想も聞きたいです。」
ここで、古田さんが一言突っ込んできた。
「昔は、お酒の席で伝えた技などがあったんですね。それをここで行のは、何か考えがあるのですか。」
この話は、ここでやるのは少し早いかとも思ったが、ここまで来たので先に片づけることにした。
橋本君の表情を見ると、彼も私の意見を聞きたそうにしていた。
「これは、二つの大きな流れがあります。昔の会社は、いわゆる男社会で24時間おつきあいと言うことで、酒の席での付き合いも重視していたのですね。そしてもう一つは、情報管理です。今は、昔と比べて、情報管理はかなり厳しくなっています。酒の席では、どうしても声が大きくなりますね。面接などの話を、そのように大きな声で話すことは許されなくなっています。」
これは、橋本君が答えた。
「古田さん、もう一度念を押しますが。本日の内容は、もしいたらの場合ですが、ペットの猫にも言わないでください。」
古田さんも笑って答えた。
「しかし今回受けた子には、『面接終了』なんて呟いていたりして!」
橋本君は、すぐに応じた。
「そうなんですよね。だから、下手な質問すると、すぐにネット上にさらされるのです。しかも悪意を持った編集でさらす例もありますので、注意が必要ですね。当然我々も、ネットの情報もチェックしていますがね。」
私も念を押した。
「確かに、このような機密保持のセンスのない子は、採用したくないね。一度注意して治るならともかく、ネット依存と言うパターンもある。どちらかと言うと避けたいタイプだね。」
橋本君がこれで、話を振ってきた。
「そろそろ本題の、避けたいタイプ論に行きましょうか?古田さんの意見はどうですか?」
古田さんの反応は早かった。
「まず、何でも教えてくれで、しかも成長しない子が一番嫌ですね?」
橋本君も昔のことを知っていたらしい。
「確かに古田さんは、誰も教えてくれないような状況でしたね。」
古田さんは、私の方を見て答えた。
「隣の課の、田中さんには、いろいろ教えて貰いました。だから、誰も教えてくれないというのは言いすぎです。しかし、教えてくれるまで待つ。自分で聞きにいかないという自主性のなさが嫌いなのです。」
これに関して、私が少し補足説明を加えた。
「そういうと、今の子たちなら『Yahoo知恵袋』に、『積極的』に質問します、とくるよ。(笑)」
古田さんも笑いながら茶化してきた。
「K大学の入試ですらそうですからね。しかも答えが、間違っていたのをそのまま書く〜〜」
ここで橋本君が応じた。
「これ困るんですね。しかし、私の上司も直ぐに、前例はと言うから・・・」
私は、これに関しては修正を加えた。
「そこのところは、誤解があるね。前例があったとしても、自分のものにするには、それなりの工夫も必要だ。このような努力をするなら、認めても良いが、完全に調理して食べさせてくれと、待つようでは困ったもんだね。」
これに対して古田さんが新しい問題提起をした。
「自分で考えるのは必要ですが、『新しい開発だけをやらせろ』という子も困ったものですね。」
これには、私も橋本君も声をそろえて言ってしまった。
「居るねー。」
私がもう少し付け加えた。
「今までの当社の蓄積を、理解できないのだな。もう一つ言えば、雑用はしたくないというタイプだ。変に学校の優等生だが、幅がない。こういう子は、伸びないね。この手のタイプには、もう一つ手抜き癖がある子が多いね。裏表があり、人に見られているところだけ要領よくやろうという子だ。」
すると藤原さんが、横から一言いった。
「しかし逆に、付け刃のていねいすぎる子もいますね。教えてくれ、何でもする。しかし考えが及んでいないから、学卒の値打ちを示せない。こんな子も困りますね。」
私が補足した。
「この反対に、変に自信があって、人の言うことを聞かない子もいる。思い込みの激しい子だ。」
古田さんが反論を唱えた。
「でもそのような子は、一度しっかり学習したら、化ける子もいますよ。私がそうだったから・・・」
橋本君が何か言いそうだったので、私が修正した。
「古田さんの場合は、最初の失敗で反省した。しかもその原因をよく考えた。根本的な解決まで自分で解決する。これができるなら、少しぐらい生意気な子でもなんとかなる。自分で根本まで考えないくせに、学校の成績などで強気は困る。」
そこで橋本君が、話を変えた。
「あまり暗くなるので、逆に欲しい人の話にしてもらえませんか?古田さんから教えてください。」
「私は、まず自分で考えるが、相談もしてくれる素直な子が欲しい。そのような子なら、少しはしんどくても教えてあげたくなる子が欲しい。」
私が、もう少し付け加えた。
「一言で言えば、成長可能性を示したくれる子だね。知識の活かし方を知っている。自分で考える。しかも謙虚に学ぶ、この両面だね。」
橋本君はもう一つ、突っ込んできた。
「性格面ではどうですか?」
これは、私が答えることにした。
「色々あるが、まず他人の邪魔をしないことだね。それから、色々な人がいるということを、認めることができない子はダメだ。多様な価値観に対応できる子が欲しい。」
橋本君は頷いたが、一言返してきた。
「そこで、先ほどの能力があって、性格の良い子と言うのはなかなか難しいともうのですが・・・」
ここで私が最後の説明をした。
「採用に関しては、必要条件と、望ましい条件を分けるべきだろう。ある程度の不足点は、他の長所があれば、カバーできることも多い。しかし、ここまで来るとダメと言う点がある。いわゆる足切点だね。これをしっかり考えないといけない。」
古川さんが応じた。
「確かに、使いにくいこと言われても、結構戦力になる子もいます。しかし、ある線を超える子はダメですね。」
私が一言言ってしまった。
「そうだね。昔、結構頭のよさそうな子がいたが、性格がきつすぎて皆が迷った子もいた。その子の採用はギャンブルだったが、上手くいったようだ。」
その時、藤原さんと橋本君の視線は確実に古川さんをとらえていた。そして古川さんは、見事に反してきた。
「私みたいに、大人しくて手可愛い女性はあまりいなくなりましたから・・・」
橋本君が、何か言いたそうにしていたので、私が答えた。
「動物園のネコ科の猛獣も可愛いという人もいるから〜〜?」
古田さんも負けていない。
「それ、セクハラはパワハラに当たりますよ。田中さんのように仕事ができ、他の人の面倒が良いから、黙っていますが。」
橋本君は、首をすくめていた。