面接者の内輪話

1.準備

 面接が終わった後、少し時間があり藤原さんも入って、皆で話をすることにした。

 藤原さんが、インスタントのコーヒーを入れてくれた。私が、差し入れに持ってきた、クッキーをつまみながら、面接の考え方について、少し話をすることにした。

 まず、橋本君に了解を得た。

 「橋本君、少し時間があるので、この機会に古田さんにもう少し、面接と言うか採用の考えを伝えたいがよいかな?」

 橋本君は、少し迷って答えた。

 「田中さんが話をされるのは構いませんが、研修としてやるなら正規の手続きを踏まないといけません。確かに、古田さんが将来当社の幹部への道を歩む可能性を、私は否定できませんが・・・」

 これを聞いて、私も言い方が悪かったと、訂正した。

 「一寸構えすぎたようで、訂正します。これは研修と言う感じで構えたものではないが、一昔前なら面接が終わった後、懇親会や慰労会と称して、先輩と酒を飲みながら、いろいろ話していたね。そのような感じです。」

 橋本君もそれを聞いて、安心したようだ。

 「そういうことなら、私も賛成です。田中流の判定と、古田さんの感想も聞きたいです。」

 ここで、古田さんが一言突っ込んできた。

 「昔は、お酒の席で伝えた技などがあったんですね。それをここで行のは、何か考えがあるのですか。」

 この話は、ここでやるのは少し早いかとも思ったが、ここまで来たので先に片づけることにした。

2.秘密保持の心得

 橋本君の表情を見ると、彼も私の意見を聞きたそうにしていた。

 「これは、二つの大きな流れがあります。昔の会社は、いわゆる男社会で24時間おつきあいと言うことで、酒の席での付き合いも重視していたのですね。そしてもう一つは、情報管理です。今は、昔と比べて、情報管理はかなり厳しくなっています。酒の席では、どうしても声が大きくなりますね。面接などの話を、そのように大きな声で話すことは許されなくなっています。」

 これは、橋本君が答えた。

 「古田さん、もう一度念を押しますが。本日の内容は、もしいたらの場合ですが、ペットの猫にも言わないでください。」

 古田さんも笑って答えた。

 「しかし今回受けた子には、『面接終了』なんて呟いていたりして!」

 橋本君は、すぐに応じた。

 「そうなんですよね。だから、下手な質問すると、すぐにネット上にさらされるのです。しかも悪意を持った編集でさらす例もありますので、注意が必要ですね。当然我々も、ネットの情報もチェックしていますがね。」

 私も念を押した。

 「確かに、このような機密保持のセンスのない子は、採用したくないね。一度注意して治るならともかく、ネット依存と言うパターンもある。どちらかと言うと避けたいタイプだね。」

3.自主性

 橋本君がこれで、話を振ってきた。

 「そろそろ本題の、避けたいタイプ論に行きましょうか?古田さんの意見はどうですか?」

 古田さんの反応は早かった。

 「まず、何でも教えてくれで、しかも成長しない子が一番嫌ですね?」

橋本君も昔のことを知っていたらしい。

 「確かに古田さんは、誰も教えてくれないような状況でしたね。」

古田さんは、私の方を見て答えた。

 「隣の課の、田中さんには、いろいろ教えて貰いました。だから、誰も教えてくれないというのは言いすぎです。しかし、教えてくれるまで待つ。自分で聞きにいかないという自主性のなさが嫌いなのです。」

 これに関して、私が少し補足説明を加えた。

 「そういうと、今の子たちなら『Yahoo知恵袋』に、『積極的』に質問します、とくるよ。(笑)」

 古田さんも笑いながら茶化してきた。

 「K大学の入試ですらそうですからね。しかも答えが、間違っていたのをそのまま書く〜〜」

 ここで橋本君が応じた。

 「これ困るんですね。しかし、私の上司も直ぐに、前例はと言うから・・・」

 私は、これに関しては修正を加えた。

 「そこのところは、誤解があるね。前例があったとしても、自分のものにするには、それなりの工夫も必要だ。このような努力をするなら、認めても良いが、完全に調理して食べさせてくれと、待つようでは困ったもんだね。」

 これに対して古田さんが新しい問題提起をした。

 「自分で考えるのは必要ですが、『新しい開発だけをやらせろ』という子も困ったものですね。」

 これには、私も橋本君も声をそろえて言ってしまった。

 「居るねー。」

 私がもう少し付け加えた。

 「今までの当社の蓄積を、理解できないのだな。もう一つ言えば、雑用はしたくないというタイプだ。変に学校の優等生だが、幅がない。こういう子は、伸びないね。この手のタイプには、もう一つ手抜き癖がある子が多いね。裏表があり、人に見られているところだけ要領よくやろうという子だ。」

 すると藤原さんが、横から一言いった。

 「しかし逆に、付け刃のていねいすぎる子もいますね。教えてくれ、何でもする。しかし考えが及んでいないから、学卒の値打ちを示せない。こんな子も困りますね。」

 私が補足した。

 「この反対に、変に自信があって、人の言うことを聞かない子もいる。思い込みの激しい子だ。」

 古田さんが反論を唱えた。

 「でもそのような子は、一度しっかり学習したら、化ける子もいますよ。私がそうだったから・・・」

 橋本君が何か言いそうだったので、私が修正した。

 「古田さんの場合は、最初の失敗で反省した。しかもその原因をよく考えた。根本的な解決まで自分で解決する。これができるなら、少しぐらい生意気な子でもなんとかなる。自分で根本まで考えないくせに、学校の成績などで強気は困る。」

4.それで合格は

 そこで橋本君が、話を変えた。

 「あまり暗くなるので、逆に欲しい人の話にしてもらえませんか?古田さんから教えてください。」

 「私は、まず自分で考えるが、相談もしてくれる素直な子が欲しい。そのような子なら、少しはしんどくても教えてあげたくなる子が欲しい。」

 私が、もう少し付け加えた。

 「一言で言えば、成長可能性を示したくれる子だね。知識の活かし方を知っている。自分で考える。しかも謙虚に学ぶ、この両面だね。」

 橋本君はもう一つ、突っ込んできた。

 「性格面ではどうですか?」

 これは、私が答えることにした。

 「色々あるが、まず他人の邪魔をしないことだね。それから、色々な人がいるということを、認めることができない子はダメだ。多様な価値観に対応できる子が欲しい。」

 橋本君は頷いたが、一言返してきた。

 「そこで、先ほどの能力があって、性格の良い子と言うのはなかなか難しいともうのですが・・・」

 ここで私が最後の説明をした。

 「採用に関しては、必要条件と、望ましい条件を分けるべきだろう。ある程度の不足点は、他の長所があれば、カバーできることも多い。しかし、ここまで来るとダメと言う点がある。いわゆる足切点だね。これをしっかり考えないといけない。」

 古川さんが応じた。

 「確かに、使いにくいこと言われても、結構戦力になる子もいます。しかし、ある線を超える子はダメですね。」

 私が一言言ってしまった。

 「そうだね。昔、結構頭のよさそうな子がいたが、性格がきつすぎて皆が迷った子もいた。その子の採用はギャンブルだったが、上手くいったようだ。」

 その時、藤原さんと橋本君の視線は確実に古川さんをとらえていた。そして古川さんは、見事に反してきた。

 「私みたいに、大人しくて手可愛い女性はあまりいなくなりましたから・・・」

 橋本君が、何か言いたそうにしていたので、私が答えた。

 「動物園のネコ科の猛獣も可愛いという人もいるから〜〜?」

 古田さんも負けていない。

 「それ、セクハラはパワハラに当たりますよ。田中さんのように仕事ができ、他の人の面倒が良いから、黙っていますが。」

 橋本君は、首をすくめていた。

HOME